MIを活用した新素材開発
マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用した新素材開発
MIとは、膨大な材料データをAIで解析し、新たな材料を設計する手法であり、各国が注目する今後必須となる技術です。従来、実験をもとに「研究者の経験と勘」で進めてきた素材開発を圧倒的に加速することが期待されます。
当社では、実験、シミュレーション、AIを融合させることで「物理・化学法則による提案」と「統計解析による提案」により、再生可能エネルギー・触媒・機能材料・潤滑油等の分野で、革新的素材(高性能・新機能・低コスト・SDGs)の発見・開発に繋げることを目指し取り組んでいます。
AI×Simulationプラットフォーム:MatlantisTMの開発・活用
カーボンニュートラル社会の実現に向け革新的材料への期待が高まる中、分子シミュレーションやAI等のデジタル技術の活用が益々重要となっています。Preferred Networks社とENEOSは、独自AI技術を用いた汎用原子レベルシミュレータMatlantisTMを開発し[1-2]、両社で設立したMatlantis社より2021年からSaaSとして提供を開始しました。日本国内に加え2023年4月からは米国、同じく12月からは欧州でのクラウドサービス提供も開始。世界中の新規素材開発に貢献しています。MatlantisTMは圧倒的高速に分子や結晶等の構造や各種物性を計算でき、従来に比べて広範囲な新規素材の探索が可能です。
MatlantisTM・MI活用事例
当社ではカーボンニュートラルに関する研究に力を入れ、MatlantisTMを用いた材料研究の加速ならびに研究開発の革新に挑戦しています。
(1) MatlantisTMを用いたメタノール合成触媒の開発
MatlantisTMを用いて、複雑な触媒表面における反応メカニズム解明および高性能な触媒探索を行っています。メタノール合成向け新規触媒のバーチャルスクリーニングでは、従来のシミュレーションで数年かかる計算がわずか数週間で完了しました。実験の結果、提案触媒は既存触媒の性能を大きく上回ることを確認しました。MatlantisTMを用いた本プラットフォームを活用し、効率的な触媒開発を牽引します。
(2) 潤滑油・グリース設計
MatlantisTMなどの先進シミュレーション技術を活用し、潤滑油・グリースの設計を行っています。分析データを活用した実在構造の推定後、LightPFPで大規模シミュレーションを行うことで、よりリアルな現象再現が可能となりました。一例としてグリースに適用した結果を図示します。分子構造によってグリース性能に違いが生じる要因を初めて明らかにし、グリース設計の指針を構築できました。他にも、自動車や家電、産業プロセスに資する潤滑油など幅広い対象に対し本シミュレーション技術を活用し、次世代潤滑油の創出を推進しています。(潤滑油研究開発のページはこちら)
(3) ブタジエン配位重合の立体選択性の解析
機能性ポリマー材料の開発にあたり、MatlantisTMを起点としたマルチスケールシミュレーション技術を構築しています。その一例として、化学反応を扱えるRedMoon法[3-4]を用いてポリブタジエンの重合メカニズムを解析しました。その結果、先行実験で観察されるcis構造の優先的な選択傾向を再現し、触媒に配位したモノマーの異性化過程がcis構造選択の重要な因子であることを確認しました。今回確立した手法やその他のスケールのシミュレーション技術を活用して、望ましいポリマー物性・構造の実現に向けた材料設計を推進しています。
(4) 反応自動探索プログラムGRRM20と連携
当社はHPCシステムズ株式会社およびMatlantis社と、GRRM20 with Matlantisを共同開発しました。GRRM20 with Matlantisは、MatlantisTM上でGRRMを用いることにより、革新的な計算速度で化学反応経路の自動探索を実現します。